航空&海上自衛隊 救命糧食

  

陸海空自衛隊の航空機および船舶に、緊急事態に備えて必ず搭載されているのが、この救命糧食。
赤いプラスティックの筒に入り、錨に桜のマークが書かれているのが海上自衛隊用救命糧食で、1ケース9食入り。 
緑の金属製缶に入り、桜にウイングマークが書かれているのが航空自衛隊用救命糧食で、こちらは5食入りになっています。
缶は蓋式なので缶きり不要な上、食べ残しは缶に再度保管する事が可能。
通常この救命糧食は航空自衛隊戦闘機の場合、射出座席のバケット部に収納されているサバイバルキットパックの中に組み込まれています。 この中には海水脱塩キットなども含まれており、飲料水は海水から確保できるようにもなっていますが、最近では水のレトルトパックも組み込まれています。
サバイバルキットバックは、パラシュートの繋がっているハーネスにくくり付けられた救命ボートにロープで繋がれていて、この装備を上手に利用すれば数日間の生存が可能ですが、もっとも自衛隊の活動範囲が日本周辺と限定されている事と、救難体制が高度に確立されているために、実際には数時間以内に救助される事が多く、そのためこの糧食を実際の遭難時に使用した記録は殆どありません。
C−130などの大型輸送機や海上自衛隊の艦艇の場合、膨張式の救命いかだなどにはじめから組み込まれています。

中身はこのようにぎっちり詰め込まれていて、筒に入った海上自衛隊タイプは取り出すのも一苦労。
そして開けた時に、中から一番最初に飛び出してくるのが、 

この、遭難者を勇気付けるためのメッセージが書かれた薄手の防水紙と、ビニール袋。
ここに書かれているメッセージから、この救命糧食は隊員から、通称「がんばれ食」と呼ばれています。

いつくるかもしれない救助を待つ身には、このちっぽけな紙切れがどれほど心の支えになるでしょう。 
実際遭難者が救助される鍵は、本人の生きようとする気力が大きく関わっていますから、絶望したら助かるものも助かりません。

さて、ここに書かれている解説文を読んでいくと、こうかかれていました。

この救命糧食は、特殊環境下においても速やかに心身の疲労を回復し、体力の維持をはかるために製造されたもので 糖類、脂肪、たんぱく質などの各種栄養素が有効に取れるように配合されています。

1食分のカロリーは、A食品 B食品 合わせて270カロリーあり、これを食べると熱とエネルギーを与え、直ちに
元気百倍となります。

A食品(ハードビスケット) 1食:48g

穀類を主原料とした加工食品で、糖質と脂肪およびたんぱく質を含み、ビスケット風な味と香りを持つ高カロリー食品です。

B食品(ゼリー) 1食:16g
糖類を主体とした加工食品で、風味高く口当たりの良い高カロリー食品です。

つまりビスケットとゼリー2種類で1食を構成し、総量は64gから270カロリーが摂取できるという事です。 一日3回食べるとすれば、810カロリーですから基礎代謝分もまかなえませんが、足りない分は体内に備蓄された脂肪を燃焼させて補えばよいので、この糧食は即座に必要なエネルギーになりやすい工夫が色々とされているようです。

この糧食には原材料の表示は一切ありませんが、偶然資料が見つかったので調べてみると、A食品の成分は小麦粉70% 粉末ピーナッツ12%グラニュー糖10% 粉末油脂4% 脱脂粉乳2.8% 塩1.2% 続いてB食品の成分はグラニュー糖58% 水あめ29% ごま11.2% に寒天を加えて固めたもの。


アルミパックされた糧食は、脂分の劣化を抑えるためにビスケットは真空パックされ、ゼリーは柔らかさを保つためにガス注入でパックされていました。
中身はこのような状態になっており、A食品(右)はバタークッキー風、B食品(左)は和菓子風。

さて実際試食した感想ですが、まずはA食品から。
しっかり固められていますが、齧るとホロリと砕け、例え体が衰弱していても無理なく食べる事が出来そうです。 これは素材を一度焼いてから砕き、再度圧縮して固めているからで、レアチーズケーキの底に敷いてあるクッキー土台のような感じです。 食感は和菓子の落雁に似ていますね。 なので唾液にすっとなじみ、簡単に溶けてしまいます。 しかし圧縮してあるために密度が濃く、口中で唾液に混じると少し膨らむ感じがしました。
味のほうはピーナッツ風味のバタークッキーと言った感じで、材料の中に結晶の大きな塩の粒が混じっているので、たまにピリッと塩味がし、唾液を誘発すると共に、甘味とコクを増してくれます。
少し前までは、量は同じですが1パック12粒のサイコロ大に整形されていて、一粒づつ食べる事が出来たそうです。

B食品のゼリーのほうは、流石に長年の経年変化で多少素材が結晶化しており、オリジナルの食感とは変わってしまっていましたが、それでも中のほうはむっちりと柔らかく、ほのかに甘いゼリーの間にゴマを主体とした餡が挟んでありました。 
かみ締めると寒天を主体としたゼリーの粘りと、真ん中の餡に練りこまれたゴマが弾けるツブツブ感&独特の香ばしさが口の中で混ざり合い、非常に高級なお菓子を食べている感じです。

どちらも上手く唾液を誘発するよう工夫されているので、殆ど喉の渇きを覚えないばかりか、口の中でいつまでもとどまり、飲み込みにくいといった事も一切ありません。

ちなみに航空自衛隊の救命糧食は個人用なので全て個別パックされていますが、
海上自衛隊の救命糧食はグループ用なので、B食品は3個が纏めて入っています。


今回試食した救命糧食はどちらも萬有栄養製で、1985年と1984年に納入されたもの。
通常保存期間は5年間です。


コレより初期(1970年頃まで)の救命糧食「T−1」は牛乾燥肉などが使われており、硬いポリエチレンの袋に入れられていましたが、昭和40年にF−104が北海道沖で墜落、遭難した事故の際、12時間半にわたり漂流し1.5食分の救命糧食を遭難時に実際に口にしたパイロットの体験談 「寒さで指がかじかんで、特にポリエチレンの袋が開け難かった。ガンバリ食(牛乾燥肉)は固かった」という証言を元に改良を加え、ポリエチレンの袋はアルミパックに変わり、固い牛乾燥肉は姿を消し、今回レポートしたこのタイプの救命糧食が開発、採用されました。
現在でも少しずつ改良され、ゼリー食のB食品は無くなり、ビスケットタイプのA食品のみが55gと量を増やされ使われているそうです。
しかしA食自体も改良が加えられ、もっとエネルギー効率や機能性も良いものに進化しているのは間違いありません。
ちなみに航空自衛隊では、事故の時に航空機の部品との見間違えを避けるために、現在では金属製の缶入り救命糧食は廃止されました。
(今の航空機用救難糧食は厚紙ケース入に入り、6食分に内容量が増やされているのだとか。)

また機会があれば、最新の救難非常食も是非試してみたいものですね。

  


最新、救難非常食

最新の救難非常食を取材する機会に恵まれたので、追加情報としてお伝えします。

海上自衛隊航空隊用、救命糧食
1袋5食入り



海上自衛隊、救命糧食
1ケース9食分



励ましのお便り。

現在使用されている救難非常食は、旧型のA食に似た落雁タイプの非常食であり、B食品(ゼリータイプ)は廃止されている。 その理由は分からないが、 A食品だけで事足りると判断されたからだろう。

実はこの救難非常食、製造会社は萬有栄養株式会社である。 萬有製薬とは全くの別会社だが、調べていくと面白い事が分かった。 と言うのは、この会社の創業者である岩垂荘ニ氏は、なんと戦時中、陸軍航空隊技術研究所、糧食研究班で長年航空糧食・・つまり上空と言う特殊環境下で起こる生理的諸問題に対し、パイロットに提供する食品を持って対処する特殊機能性食品の研究を世界で始めて行った第一人者だったのである。 それもあの有名な川島四郎少将の直属の部下で、当時の研究が現代の食生活に大きな影響を与えた偉大なる人物であった。
当然のことながら、この救難非常食もその時の研究データや、その後の改良により完成された優れものであり、世界に誇れる日本独自の救難非常食なのである。
もちろん自衛隊向けに製造されている救難糧食を、我々が口に出来る機会は少ないが、なんと同等民間向け商品は我々でも購入可能だ。

詳しくは 萬有栄養株式会社HPまで

ちなみに萬有栄養の主力商品は非常用食品とインスタントスープである。 一見おかしな組み合わせの商品ラインナップであるが、これにも面白い理由があるのだ。 というのも、このインスタントスープも、旧軍時代に氏が研究していた「乾燥粉末醤油」から発展しているためだ。
上官である川島四郎は、醤油を戦地に運ぶ際、その殆どが水の重量で、瓶や樽などの余分な重量も加わる為無駄が多い、コレを粉末にして戦地に送ろうと考え、岩垂荘ニに粉末醤の研究を命令した。 当時既にフリーズドライ技術はあったが、醤油は単純に粉末化しただけでは香りが飛んで風味が悪くなるので、魚粕を酸で分解してアミノ酸を作り、コレを濃縮して作ったエキスを塩や砂糖、琥珀酸グルタミン酸などの粉末に吸着させて乾燥したものを作り、粉末醤油を完成させたのだ。 さらにコレを発展させ、上記の粉末にチキン油脂を入れて圧搾するとチキンスープ、牛油脂を入れるとビーフスープの固形スープが出来る、これも戦時中安価に製造できたのでパイロットの栄養食として大量に使われたのだ。萬有栄誉のインスタントスープはコレが元になっている。
ネッスルのキュービック固形スープも第二次大戦中に使われたが、日本の方が最初にインスタントスープを発明したと言う事だ。 ついでに言うと、この技術があったからこそ、インスタントラーメンが出来たといっても過言ではない。

ちなみに・・萬有製薬とは全く別会社ではあるが、萬有製薬創業者は、氏の実父である。 しかし、やはり軍の研究の延長で開発した燻製液で作ったクジラベーコンで自ら会社設立の資産を作り、独立会社として事業を起こしたのだ。
その燻製液も、戦時中航空機燃料に加える添加剤の副産物として大量に出来てしまう木搾液に困った同僚に相談を受け、廃物利用アイデアとして作ったのが始まりだそうである。

やはり凄い人だ!